筒井康隆という概念のはなし


 筒井康隆という、存命の人物の概念にまつわる話をする。

 決していい話ではないが、私は氏を個人として嫌っているわけではなく、また氏の作品を嫌っているということもない。この感情は嫌悪ではなく反射的な、こう、なんというか、アレルギーのようなものであることを理解して頂きたい。
 また、氏が絶賛されていること、氏の作品が素晴らしいと評判を得ていることには純粋に敬意を持っていたい。ので、私は本文中で氏のことを御大と呼ぶことにする。御大と呼んでおれば、決して私がディスり目的での記事を作成しているのではないことを理解して頂けると、信じておくことにする。

 <登場人物>
 御大 … 筒井康隆という作家
 私  … 売れない同人作家

 御大の業績については割愛する。
 たぶんみんな知ってるでしょ。

 と言うとムッとされる方もいるかもしれない。
 が、私のアレルギーはまさにこの点で発症する。
 「御大の業績はたぶんみんなもう知ってる」

 正直私は御大の小説を読んだことがない。

 SFも笑劇も好きだ。
 SFマガジンを購読している。
 坂口安吾なども一応通ってはきているし、年間読書数というとそんなにないけれど読んでいるものの八割はハヤカ○から出版されているもので、残りのうちの八割は○波から出版されているものだ。

 想像してほしい。

 貴方はゲームを始めた。
 作中にはどうやら有名らしい人物がいる。
 最初に訪れた街で、その人物がいかに素晴らしいかというフレーバーテキストを摂取した。たぶん、ちょっと興味を持つだろう。
 このゲームのシナリオにおける、キーパーソンなのかもしれないと思うだろう。

 次に訪れた街で、その人物がいかに素晴らしいかというフレーバーテキストを摂取した。たぶん、最初の街で抱いた感情が補強されるだろう。
 しかしそのフレーバーテキストが、最初の街で摂取したのと酷似していたとしたらどうだろう。べつにどうとも思わないかもしれない。工数削減かな~と思うのかもしれない。それはそれでいい。
 大切なのは、このシチュエーションを想像してもらうことだ。

 その次に訪れた街で、またもや例の人物がいかに素晴らしいかというフレーバーテキストを摂取した。ここで貴方は気付く。
 「これはメインストーリーではない」

 サブストーリーの作り込まれた作品だと思うだろうか。
 背景のしっかり考察された作品だと思うだろうか。
 たぶん私も、どちらかというとそう思う。
 フレーバーテキストのどれもが似通っていたって、そりゃあ工数削減は必要だからね、しょうがないね。

 さて、このゲームをクリアした。
 拡張されたマップへ向かった貴方は、今までにいくつもの街で「例の人物」の、いずれも似通った話を聞いている。おおよそは武勇伝である。
 もちろん、拡張されたマップで訪れる最初の街でも、貴方は「例の人物」の話を聞く。

 そろそろ思わないだろうか。
 「他に人おらんの?」と。



 私は思う。
 ハーラン・エリスン特集と銘打たれた文芸誌。そこに御大の名前があったときの衝撃を。なにげなく推し作家のWikiを見ていたら、そこに御大の名前があったときの衝撃を。推し作家の全集の、あとがき、解説に、御大の名前があったときの衝撃を。同人小説を好む人間の集まりで、あちらこちらから名前が聞こえてきたときの衝撃を。
 ぶっちゃけもういいです。

 繰り返す。
 御大のことを非難したいのではない。
 御大のことが嫌いなのではない。
 みんながそうやって御大の名前を出すのが嫌なわけでもない。
 何が嫌か。私がこの時代に生まれたことが嫌だ。

 御大が青空文庫に収蔵されてから生まれたかった。

 私が同人イベントの際、SFに出店したくないのがそれである。
 今までずっと、SF大会に行きたい行きたいと口ばかりだったのもそれである。
 SFが好きだと自覚し公言ていながら、好きな書籍の話をすることも、同じSF好きと繋がろう会話しようとすることもあかったのもそれである。
 みんな好きなのは知ってる。みんな好きなんだからきっと素晴らしいんだろうことも知ってる。ご本人のWikiや著作は読んだことがない(SFマガジン連載分は時々読んでいる)が、伝え聞く限りいわゆるSF好きなヤツみんな好きやろ、みたいな雰囲気を感じることもある。
 拗らせている。

 好きなものを拗らせている人たちの話をよく聞くし、読む。
 バンドの追っかけをしていた話とか。
 私にとっては「好きなアーティスト」に中心人物が死んだグループや死んだ作家や解散したバンドを挙げる、というのが今までそれであったが、御大の概念がその上を行った。
 拗らせてしまった。

 長々と書いてきたが、異論は認める。
 この作家もええぞ、という話が聞きたいというだけだった。
 すばらしい人はきっと世にたくさんいるのだが、みんながみんなその頂点の話ばかりしていたら他が死んでしまう、と、思うのは私だけだろうか。
 殿堂入りというシステムがあるのはそれだろうと思うが、違うだろうか。もっと、情報を、循環させてほしい。

 循環させるだけの情報が「界隈」にないのだ、とか、循環させるだけの体力が「市場」にないのだ、とか、そういう話は悲しくなるが、そう思っている誰かにとっての現実であるから歓迎する。
 この記事で私が拒むのは、御大の名前だけである。
 推し作家がいたら、教えて欲しい。同人でもいい。
 私の最近の推しは「魚は銃を持てない」です。

魚類